北陸 ヒト×コト

「九谷焼の魅力を、新しいカタチで届けていく。

上出長右衛門窯

上出 惠悟さん

1981年生まれ。石川県出身。東京藝術大学油画科を卒業後、窯元の跡継として九谷焼の新たな可能性を追求し続ける。作家活動も精力的に行い、国内外で活躍中。

川県能美市に、1879年より続く九谷焼窯元「上出長右衛門窯」はある。その6代目にあたる上出惠悟さん、九谷焼の魅力を伝えるべく奮闘する若き担い手だ。上出さんはこれまでに世界的なデザイナーであるハイメ・アジョン氏とのコラボレーションや九谷焼の転写技術を用いてシール感覚で絵付けができる「KUTANI SEAL」を考案するなど、従来の九谷焼にはないユニークなアプローチを次々と試みている。そんな上出さんの存在を世間に初めて知らしめたのが、大学の卒業制作で手がけたバナナをかたどった九谷焼「甘焦 房 色絵梅文」だ。

この作品をつくっていく過程で、上出さんはそれまで漠然としていた家業への想いを強めていったと振り返る。「大学3年生になって卒業制作に取りかかろうとしたとき、入学してから自分の表現に向き合うことをしてこなかったので、ふわふわと根無し草のようだったと思います。そこで1年休学して自分のルーツに立ち返ろうと思ったのがきっかけでしたね」。
 北陸に戻り、生まれ育った環境や九谷焼の歴史について調べていくにつれて、上出さんの中にひとつの想いが芽生え始める。「いろいろと見ていくうちに、日本の手仕事が消えていっている現状を改めて認識して。

伝統的な瓢箪型徳利に把手をつけ、ユニークな絵付けを施した「把手付徳利」のほか、これまでにない新しい九谷焼を数多く生み出している。

でも担い手が減っていること以上にそのものが知られていないことに問題があると感じて、自分にも何かできることがあるんじゃないかと考えるようになりました」。
 2006年に大学を卒業後、地元に戻って本格的に活動を開始。以来、さまざまな商品を生み出し続ける傍ら、毎年5月初旬には「窯まつり」も開催している。職人の仕事を身近に感じてもらおうと絵付体験や工場見学なども行っており、今年は来場数が4000人を超えるなど年々賑わいを見せている。
 さらに数年前に十代からの友人ふたりが仲間として加わったことで手がけられる作品の幅も広がったほか、生産管理体制も整ってきたという。「まだまだな点も多いけど、みんなと想いを共有しながら進んでいきたいです」。その先に九谷焼の伝えるべき魅力と新たな価値があると信じて、上出さんは仲間と共に歩み続ける。