北陸 ヒト×コト

「ものづくり」は北陸の魅力。そのために私にできることをやっていきたい。

自分が生まれ育った街は特別な存在。
私にとっては、それが富山なんです

山で生まれ育って、故郷を離れたのは高校卒業の時。大学での学生生活、京都でのライター活動を経て、小説家を目指して東京に移り住みました。上京した当初、小説を書きたい気持ちがありながらも自分の中に書きたいものを見つけられずにいた時期があります。そんな時にあらためて東京から富山を見て、自分にとって当たり前だった故郷の街や文化は特別なものなんだなと

感じたんです。それから地方都市の地理的・文化的な特殊性と、その中で生きる女性たちの物語を書き始めました。今では、「もっと地元を盛り上げたい、なんとかしなきゃ」と思うようにもなって、昨年は富山の商店街を何度も訪れて取材しながら、地方都市の商店街を舞台にした小説も執筆しています。

 今年の5月には、新刊「選んだ孤独はよい孤独」が出版されました。これまで自分と同年代の女性を描いてきましたが、今回の短編集の主人公は全員男性。社会の男女平等は進んだかもしれないけど、家庭内での家事や育児のシェアはまだまだですよね。そのテーマをずっと女性視点で書いてきて、じゃあ男性はどう思っているのかなと思ったのがこの本を書いたきっかけです。ぜひ男性の皆さんに読んでいただきたいですね。
 小説家って仕事の終わりが見えにくくて。書き終わってもゴールじゃないし、書店に並んだ後もPR活動が続いたりと、なんだか達成感を得られないまま次々と仕事に取り掛かっている感じです。「お疲れさま!乾杯!」みたいなこともないし、普段の生活はすごく地味です(笑)。
 私、陽か陰かで言うと陰が落ち着く人間で、これは北陸、富山に育った県民性なのかもしれません。しっくりくるのは、明るい太平洋よりも湿っぽい日本海。富山にも人がたくさん訪れて盛り上がってほしい気持ちもあるけど、静かで穏やかで、でも人は温かい、そんな地域性も大切にしていってほしいなと思います。
 やっぱり自分が生まれ育った街には特別な思い入れがあります。これからも富山を愛するひとりとして、地元の良さを発信したり、課題を発見したりしていきたいと思っています。

作家

山内マリコさん

1980年富山県生まれ。2008年「女による女のためのR-18文学賞」で読者賞を受賞、12年『ここは退屈迎えに来て』(橋本愛主演で今秋映画公開)で作家デビュー。地方に生きる女子のリアリティを描き出し、一躍人気作家となる。主な小説に『あのこは貴族』『メガネと放蕩娘』など。エッセイに『皿洗いするの、どっち?』など。新刊は男性を主人公にした作品集『選んだ孤独はよい孤独』。